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創られた伝説

 

   世界は30世紀へと向かっていた。

21世紀に人類は何度も消滅の危機を迎えながら、かろうじて生き残る事が出来たが、その経験を生かし、社会体系を大きく変貌させた。

ほぼ、100年の年月をかけて、世界は統合して行き、その間に、経済と称された金品の交換と言う概念は消え去った。

生活を支える、衣食住は全て機械化され、人間の<仕事>は無くなった。唯一残された事は、生活を支える為の、機械・組織のメンテナンスを行う事。そして、これも、完全にボランティアであり、職業と言うものは無かった。

自主的に名乗り出た人達が、この業務に就き、40歳に成るまでに後継者を作り上げる規定が存在していた。

物欲の必要性が消えた中で、人々の生活の基盤となる生きがいは、芸術や宇宙を含む人類未踏の場への探検等に向けられていた。

21世紀、冷凍技術の発展で、未来への旅は可能となったが、未だに過去への旅には課題が多かった。

アインシュタインの理論では、光速を越えられれば、過去へと戻れるらしいが、光速を越える手立ては見つかっていない。

 

ここに、一人の男が居た。名前をクーパー、物理化学の研究を趣味として続けていた科学者である。

いつものように、有機栽培の珈琲を原始的な石臼で挽きながら、歴史上の過去の出来事をモニターで見ていると、友人のオニールが訪ねて来た。彼らの関係は、友人と言うより恋人と言った方が適切かもしれない。この時代、性は大きく自由化され、相手が納得していれば、レズ・ホモ・SM どんな形もタブーとはされていなかった。

オニールは歴史研究家で、特に、戦国時代から徳川の元禄時代に興味を持ち、過去への旅が可能になれば、是非、その時代の日本へ行って見たいと常日頃から思っていた。

 

「よう、オニール、久しぶりだね~。どこへ行ってた?」クーパーはハグしながらオニールに訊ねた。大柄なオニールはクーパーを抱き上げながら「ちょっと、博物館めぐりで、20~21世紀の日本と呼ばれた国を見て来た」と言って口づけを交わした。

「見て来た」と言うのは、リアルな3Gのモニターと特殊なコスチュームで、その時代をバーチャル体験してきたと言う意味だった。

「面白そうだね~」クーパーは興味深々のようだった。

「日本って言う国は、世界大戦でボロボロに成りながらも、60年位で、世界の大国に肩を並べる位に復興した国で、とっても珍しい国民性を持ってたよ」

オニールはクーパーの入れた美味しい珈琲を飲みながら続けた。

「そんな風に、発展して、独自の文化として、アイドルとかアニメとかを世界に発信してたんだ・・・・でも、性に対しては、何時までも保守的で、当時の米国と言われた大国やヨーロッパの解放には大きく後れを取っていたんだ。そのくせ、地下に潜って、開放的な性を、違法と言いながら楽しんでいた人達も居て・・・・・変った国民だよ。多分、他国と孤立した島国だった事が大きく作用しているのかもしれない」

ここまで話して、オニールは一息、吐息をもらした。

「どうした?何だか、物憂げだね・・・・」クーパーは彼の表情が気に成った。

窓から外の緑を眺め、「私は、どうしても、もっと原始に近かったはずの、江戸時代の日本へ行って、彼らの性意識や風俗社会を見て見たい・・・・」と呟いた。クーパーは後ろからオニールに抱きつき、優しく愛撫しながら、「私が必ず時空を越えられる方法を見つけて上げるよ・・・・」まるで女性のような優しさで、オニールのシャツの中に手を滑り込ませると、オニールがゆっくりと振り向きクーパーを抱きしめた。

我々の感覚で考えれば、当然、小柄なクーパーがネコで大柄なオニールがタチだと解釈しがちだが、彼らの関係は眞逆であった。

クーパーがオニールのシャツのボタンを外している間にオニールは目を瞑り、ベルトのバックルを外す。ボタンを全て外したクーパーが、オニールのズボンを下ろす・・・

抱き合いながら、隣室のベットルームへなだれ込む。

オニールはクーパーをベットに横たえ、ゆっくりと衣服を脱がす。小柄ではあったが、適度に鍛えられた体が徐々に露出して行く。腹筋は8っつに分れ、胸筋は嫌みの無い程度に鍛えられており、うっすらと脂肪が包み込んだ感じは、セクシーさの表れだった。一方のオニールは、小太りで、現在のホモセクシャルの最も求める体型に近かった。

ベットに横たわったクーパーはいつの間にか全裸に成っていて、股間のブリックは充分勃起していた。

オニールは、自分の服を脱ぎながらクーパーの体を愛撫し始めた。体に似合わぬ細い指が、クーパーの唇に触れる。クーパーは軽く口を開き、オニールの指を招き入れる。舌が指に絡まり、唾液が溢れる。オニールの舌は、クーパーの乳首を弄び、興奮を誘う。オニールの股間は、未だにブリーフの中に有ったが、淫汁でブリーフを湿らせていた。クーパーの口から指を抜き、その手でクーパーの股間を弄りながら、キスをする。オニールの舌が、クーパーの唇の回りを舐め、唇を割って舌を探す。歯の間に隠れた舌を、ゆっくりと口外へ導き絡める。お互いの唾液が混じり合い、吐息が行き来する。

クーパーの唾液で濡れた指で、彼の亀頭を弄ると、勃起していた陰茎の血液が集まってくる。手のひらで、その鼓動を感じたくて、オニールはクーパーの陰茎を包み込む。ゆっくりと、摩擦すると、亀頭の先から粘液が滲んできた。その粘液を陰茎と亀頭に、たっぷりと塗り込むと、ぬらぬらとした輝きが、暫く離れていた寂しさと相まって、性的興奮を増長した。

オニールはプーパーの陰茎を口から喉の奥まで呑み込み、喉から溢れる粘液を口元から滴らせた。オニールの口の粘液とクーパーの亀頭から溢れる粘液で、大きめなクーパーの陰茎は摩擦力を失って行く。

オニールはブリーフを脱ぎ、自分の口から溢れている粘液を自らのアナルに刷り込む。指を使って、少しずつ拡張しながら、アナルから直腸まで粘液を送り込む。

アナルの収縮力を弱め、塗り込んだ粘液を乾かさないように保ちながら、クーパーの陰茎をフェラティオする。クーパーはオニールの愛情を心一杯に感じながら、勃起力を最大に引き上げた。

ゆっくりと体制を変えて、オニールは仰向けになり、両足を抱えて、アナルを広げる、クーパーは濡れそぼった彼のアナルに、自分の唾液を垂らして、舐める。柔らかく成ったアナルの筋肉の内側に舌を差し込み、まるで、瓶の縁を舐めるかのように・・・・舐めて、吸って、差し込む。

オニールはその行為に股間を勃起させて悦びをかみしめていた。

時は熟して、クーパーはおもむろに、オニールのアナルへと陰茎を挿入して行く。

ぬらぬらと淫液で濡れた柔らかい亀頭がアナルの入り口を通過して、陰茎が、少しずつ入って行く。オニールはうっすらと口を開け、アナルの筋肉の緊張をほぐし、挿入しやすいように、体全体を脱力する。

クーパーの筋肉のように硬くなった陰茎が根元まで呑み込まれた。

クーパーは、抜き差しを、あまりせず、ゆっくりと腰を回す。前後、左右、上下と動かし、オニールの前立腺を刺激する。オニールの口から声に成らない声が漏れる。「ヴッ!」眉間に皺を作った顔に歓喜の表情が浮かぶ。のけ反り、クーパーの動きと同調して、お互いの興奮を高めて行く。クーパーもオニールも相手の興奮を感じると、自分も誘発されてゆく。相乗効果で2人は燃え上がって行く。オニールの亀頭から粘液が溢れ、それに呼応するように、クーパーの陰茎が脈打つ。

彼らにとって、性的極みは、一緒に果てる事。声を掛け合い、のぼりつめて行くのが日常だ。

オニールが先に果てそうに成ると、クーパーは腰の動きを止める。そんな繰り返しが2人に最高の昇天を与えてくれる・・・・・

クーパーの陰茎が脈打ち、亀頭から精液が放出されようとする、と同時にオニールの亀頭から精液が噴出した。アナルの中で、クーパーが発射するのを感じて、一緒に発射したのだ。

クーパーはアナルから陰茎を抜き、オニールの射出した精液を舐めながらオニールの口元へ持ってゆくと、オニールは残留したクーパーの精液を綺麗に舐め上げ、口に含んだ。

 

久しぶりの性交渉を楽しんだ2人は、ベットで虚ろな時間を過ごす・・・・・

 

 

 

       時は元禄、花の御江戸は百花繚乱。

大店の旦那衆は小判をばらまき、吉原では毎晩、お祭り騒ぎ。

一般庶民は、細々と生活しながらも、身の丈に合った遊び心は失われず、煮売り屋で一杯ひっかけて、品川辺りの女郎屋へしけこむ・・・・

ここに一人の大工(でえく)が居た、名前は平助、腕は良いのだが、なにせ、博打好きな上に、飲み過ぎると仕事を怠ける。腕が良いので、目を瞑っていた親方もとうとう見離し、一月も仕事が無いまま家でくすぶっていた。恋女房のお満(みつ)は平助の幼馴染の徳兵衛がやっていた煮売り屋、「徳」で手伝いながら生活を支えていた。徳兵衛は女房と二人では切り盛り出来ないほど、店が流行っていたので、渡りに船とばかり、お満を受け入れた。真面目で可愛い

お満のお陰で、店は益々繁盛した。

仕事を失った平助は、生き生きと働くお満に嫉妬していた。自分の不甲斐なさが、その嫉妬心を増長して、やり切れない気持ちを博打で晴らそうとして、借金の山を築いていた。

「徳」は今日も繁盛していた。「そろそろ、暖簾を仕舞っとくれ」徳兵衛に言われ、女房のお染は暖簾を店の中へ入れながら、「お疲れ様、今日の御給金を徳さんから貰って」お満は「は~い」と言いながら、たすきを外し、調理場の徳兵衛から2朱ばかり受け取って会釈する「有難うね」。2朱と言えば、ほぼ1/8両で1両はかなりの大金。「徳」で8日働けば1両に成ったと言う事で有る。良い給金である事は確かである。

お満を帰し、店を閉めると、お染は鍋にあった湯を手桶に少し入れて水でうめ、手で熱さを確かめる。寝所に手桶を持って行くと着ていた着物を脱ぐ。手ぬぐいを浸し、軽く絞り、適度な湿り気で股間を拭く。もう一度、浸し、今度はきつく絞って、再度、股間を拭き上げた。当時は家風呂など金持ちにしか無く、このように拭くか行水が一般的で、何日かにいっぺん、湯屋へ行く。湯屋は社交の場でもあり、今で言う「サウナ」や「スーパー銭湯」のような存在で、男女混浴。そのくせ、脱衣場は別々。この感覚は現代の感性では理解しにくいかもしれない。

お染は、ひとしきり、体を清め、襦袢に身を包む。そこへ、調理場の片付けを終えた徳兵衛が入って来た。お染は徳兵衛の後ろに回り、着物を脱がせる。越中褌の紐を解くと、徳兵衛の大きめの男根がだらりと垂れ下がる。お染は自分の体を拭いた時のように、軽く絞った手ぬぐいで徳兵衛の全身を拭き、同じように硬く絞って、体に纏わりつく水分を拭き取った。仁王立ちした徳兵衛の足元に跪き、男根を優しく拭く。陰茎を持ち上げ、根元のフェロモンを拭き取り、陰毛も少しずつ拭き上げる。陰茎を優しく拭き始めると、徐々に勃起して来ていた。雁の部分を指先に絡めた手ぬぐいで拭き始めると徳兵衛の口から吐息が漏れる「ふ~」。亀頭の先から粘液が・・・・・。お染は優しく舌でなめる。濡れた手ぬぐいは畳の上にポトリと落ちた。

亀頭を口に含み、お染は愛おしそうに徳兵衛を見上げる。その視線と仕草に、徳兵衛はたまらず、お染を抱きしめ、そのまま布団に倒れ込む。襦袢の胸元からチラリと見える胸のふくらみは、程良い大きさで、子供を産んでいないお染の乳首は可愛らしくへこんでいた。徳兵衛は、その胸元に右手を滑り込ませ軽く鷲掴みにする。お染が「うっ」と声を出すと徳兵衛はその手を襦袢の中で肩まで滑らせる。ゆっくりと襦袢から肩を露出させて、その肩に顔を埋める。徳兵衛の舌が肩から首へと這い、噴き上げた皮膚を唾液が濡らして行く。首筋から耳の後ろへと徳兵衛の舌は容赦なく舐め続ける。徳兵衛の鼻息がお染の耳から脳髄に刺激を与えると、お染の体は愛液を滴らせていた。舌を出すお染。その舌を吸いながら徳兵衛は男根をお染の股間に押し付ける。亀頭の先から溢れる粘液を股間の豆に、すりつけるようにあてがい、お染の勃起を促す。ゆっくりと力強くこするようにしてから、中へ押し込んでゆく。大きめの亀頭の先が、陰唇の内側へ滑り込むと、後はお染の愛液に導かれて膣を通り、子宮の入り口にまで届く。亀頭の先が子宮の入り口にコツコツと当たる。その動きに合わせるかのように、お染の口から声が出る・・・・2~3回の抜き差しの後、徳兵衛は腰を使って、すりこぎを使うように回す。お染の膣の中を徳兵衛のすりこぎが、かき回す。徳兵衛の恥骨の辺りが、お染の豆に刺激を与える。徳兵衛が両手でお染の腰を抱き、体全体でグラインドするとお染は、その動きに逆らわず、身を任せる。2人の息遣いが激しくなってきた。声に成らない声が寝所に溢れる。徳兵衛の陰茎を通過した精液が亀頭の先から、お染の子宮に向かって発射されると、お染は目をむいて、のけ反り昇天した・・・・・

受精に充分な行為で2人は全霊を放出していた。ほぼ、毎日、このように愛交を交わしていたのだが、何故か子宝に恵まれない夫婦で、行為の後の会話は決まって「子供がほしいね」「出来たら、こんな名前が」

一方、それに引き換え、平助とお満の夫婦は、平助の仕事が無くなってからは、冷え切っていた。お満が、尽くせば尽すほど平助の劣等感がお満に冷たくあたる。

そんなある日、お満が「徳」の仕事を終えて長屋に帰ると、家の前に人だかりが出来て、なにやら騒がしい。そっと近付くと、地廻りのやくざ者が数人で平助を締め上げていた。長屋の住民は可哀そうだとは思うが「触らぬ神に祟り無し」を決め込んでいた。お満に気付いた隣のばあさんが「直ぐにお逃げ!ここに居ない方が良いよ!」と勧めたが、平助を愛しているがゆえに、逃げる事が出来なかった。お満を見つけた平助が「来るんじゃ~ねえ!お満、来るんじゃ~ねえ!」と叫んだが、時すでに遅く、地廻りに見つかってしまい、取り囲まれてしまった。「お前(めえ)の女房か~?可愛いい顔してるじゃ~ねえか」平助が懇願しても聞く魂じゃ~無い。「待ってくれ!あと1日だけ!頼まあ!」平助の必死な姿に、何を思ったのか地廻りは「よ~し、分った、明日の六つまで待ってやら~。その代わり、金が出来ないなら、この女房を貰ってくぜ!」

地廻りが引き上げて、長屋の住民も蜘蛛の子を散らすように居なくなった。

部屋で対峙するお満と平助だった。長い沈黙が続く。急に平助が、頭を畳に擦りつけ「すまねえ~」お満は黙ってうつむいていた。「俺(おら~)もう駄目だ・・・・駄目な亭主ですまね~・・・お前(めえ)に苦労ばかりかけちまって・・・・」

「どうするつもり?1日で作れるお金じゃ無いでしょ~?」お満の言葉に一言も出無い平助だった。「もう、終わりなのね・・・・?」お満は覚悟を決めていた。「私を売り飛ばすしか無いのね・・・・?」強い口調に、平助は、ただ頷くしか出来なかった。

「もう、諦めたから、勝手にして下さい・・・ただ、どうせ売られるなら、詰まらない場末の女郎屋じゃ~無くて、吉原の1流所にして下さい。それが、せめてもの慰めに成るから・・・・」煮売り屋で働いて、多少、世間を見て来たお満は自分の価値を貶めたくなかった。「どうせ売られるなら、自分の価値がどの位なのか?」知りたかった。

翌朝、平助に連れられ吉原の「三浦屋」へと向かった。吉原の中でも5本の指に入る程の大店だ。女衒では無いので繋ぎも付けられず、飛び込みであった。「三浦屋」の主人に会いたいと言って、直接談判する意気込みだったが、玄関で冷たくあしらわれそうになった。するとお満が「エンコで評判の美人中居が、この店に来て上げると言ってるのよ!」と大声で啖呵を切った。開き直った女の意地である。

二階に居た客の一人、蔦屋がその声を聞き付け面白がって、階段の上から覗いた。

「ほ~、自分で言うだけ有って、なかなかの美人だ」

蔦屋は、絵草子等の販売で一世を風靡していた。現在のテレビ業界ほどの実力者。早速「三浦屋」の主人を呼んで「面白そうなオナゴじゃ~ねえですかい?私の顔で、雇って見ちゃ~くれないかい?金は私が出そうじゃねえか」こう言われちゃ~「三浦屋」の主人も断れねえ。「よござんす。蔦屋さんもモノ好きですな~」。2人は顔を見合わせ大笑いした。

「三浦屋」の主人は平助の前に出て来た。「私がここの主人ですが、自分の女房を一体、幾らで、お売りに成りたいので?」

平助はしばらく返事に困っていた。お満は平助の耳元で「いくら必要なの?」と小声で聞いた。平助はお満の耳元で「5両・・・・」と呟いた。お満が「じゅ・・じゅ・・10両!」と言うと「三浦屋」は「そんな物で良いのかい?」お満は「に・・・に・・・20両!」「はっはっはっは」「三浦屋」は大笑いして、2階から覗く蔦屋の方を見ると、蔦屋も大笑いしていた。庶民とお大尽の金銭感覚は相当にずれていた。お満は大金を吹っ掛けたつもりだったが、蔦屋や三浦屋に取っては、大した金額では無かった。2人の遊び心のお陰で、お満は思わぬ大金で買われて行くのだった。

「よろしい、30両で買いましょう・・・ただし、条件が有ります。この女、私の好きなように扱わせて頂きますよ」まるで脅しのような言葉と大金にお満も平助もたじろいだ。が、後戻りは出来ない。お満は平助に「これだけのお金が有れば、借金も返して、大工の仕事に戻れるでしょ?質屋に有る道具を出して、真面目に仕事に戻って下さいね。お前さんは腕が良いのだから、これだけは、お願しますね」お満の言葉に涙を流した平助であった。三浦屋が続けて、「そんな事なら、私が、この亭主の行く末を見守って、お前さんに報告してやろう。真面目に大工をしているのか」

こうして、お満は破格の値段で吉原に売られ、花魁への道に入った。亭主の平助は大工の仕事に戻り、博打と酒をぷっつりと止めた。そして、蔦屋との出会いで、面白い仕事を請け負う事になるのだが、その話は後ほど・・・・・

 

クーパーはどう考えても光速を越える事が無理だと思い始めていた。

オニールの方は、何としてもクーパーの知能で、時間旅行を実現して欲しいと思っていた。何日も曇りがちな日が続いた、そんなある日・・・・・・・

2人は、べたつく体を寄り添ってベットにいた。空調を動かせば最良の環境が作れるが、自然を求めて、あえて空調を切っていた。お互いの汗を分かち合う事で、2人の関係が深まって行くような気がするからだ。2人の体臭が部屋に充満すると、性的な興奮が2人の大脳を刺激して、非日常の神経が反応し始める。貪るようにキスを繰り返し、全身から溢れる汗を舐め、股間から発するフェロモンを吸いこみ硬く勃起した陰茎を舐め合う。口に含み、舌で亀頭の下の部分を刺激すると、淫液が口の中に卑猥な香りを充満させる。2人の関係は長い。お互いを知りつくしている。徐々に登り詰めて行くのを相互で確認しあうと、思い切り発射した。相手のザーメンを喉の奥に受けて、後の亀頭を、掃除するかのように、舌で舐める。呑み込んだザーメンの残り香を楽しむかのようにキスを繰り返した・・・・・

しばらくの瞑想の後、クーパーが呟いた「メビウスの輪・・・・」

オニールには何の事か、瞬時には理解できなかった。「メビウスの輪って、宇宙の原理に近いよね?どこまで行っても行きつかない。これって、逆説に進めば、過去に戻れるのでは・・・・・」オニールにはこの原理を理解する事が出来なかったが「それで時間旅行が出来るって事かい?」窓の外の遠くを見つめながらクーパーは頷いた・・・・

 

数か月後、クーパーはオニールを呼びだした。実験をしようと言う。

彼の理論によれば、「宇宙は巨大なメビウスの輪と同じで、どこか一か所に穴を開ければ時空の壁を破れるかもしれない・・・・」と言うので有るが、一体どのようにして、その穴を開けるのか?

クーパーは「核融合の際に放出される、光子が、時空の穴を開けるのに一番適している」と言う。人に害の少ない分子として選んだのが、酸素と水素。ご存じのように、この二つの分子が結合すれば水に成る。そして、その段階で分子の結合に合わせて、一部の核を融合させようとの事であった。しかも、クーパーは自分が実験台と成って、数日前に戻ると言う・・・・・

棺桶を立てたようなケースに入りながら、オニールにスイッチを入れるように頼む。機械のメーターに、2日前の日付がカウントされていた。

オニールはクーパーの足早な説明に訳も分らないまま、ケースの扉を閉めてスイッチを入れた。

人間の体の大部分は水分である。クーパーは数分で水蒸気のように成り、ケースの中には稲妻が光った・・・・・

オニールはスイッチを入れたものの、急に不安に成った、果たして彼は戻って来れるのだろうか・・・・・?

部屋のドアをノックする音がした。この電子時代にノック等とアナログな事をする奴は・・・クーパーしか考えられない。急いでドアを開けると、紅潮した顔のクーパーが立っていた。「成功だよ!!ちょうど2日前のこの部屋に来て、私の体が形成されるのと同じ時間で過去の自分が消滅していた!」

2人は抱き合って喜んだ。

 

 

  お満の心に平穏は無かった。三浦屋に入り、化粧の仕方やお客様に対する所作を教育される日々は、お満に取って、知り得無かった別世界。驚いたり感心したりの毎日だった。

三浦屋は蔦屋の希望でお満を最上級の花魁にしようとしていた。ある種の英才教育では有ったが、それが先達の神経に触れた事は予想できた。

本来、花魁への道は長く険しい。禿(かむろと呼ばれる童女)から新造(しんぞうと呼ばれる見習い)を経て、お大尽に水揚げされるまでに数年の教育が必要であった。

お満の場合はかなり特殊な待遇で、本来は処女で無ければ水揚げは行えない筈である。

御存じの通り、平助と言う立派(とは言えないが・・・)な亭主持ち。蔦屋の口入れが無ければありえない話である。

自分が散々努力しても、花魁には成れない他の女郎にしてみれば、面白く無い存在で、それなりの虐めがあった・・・・

そんな中(吉原の)で一人、お満をかばってくれた花魁が居た。名前を香蘭と言い、父親は唐人(中国人)で母を強姦した挙句に、本国へ逃げてしまった男である。香蘭の母は武家屋敷で下働きをして生計を立てていたが、ある日、主人の夜伽を断固として断り、手打ちにされてしまった。残った香蘭は15歳にして、行く当も無く、墨田川に身投げしようとした所を、前出の蔦屋に拾われ三浦屋の新造から花魁に上り詰めた女である。

混血の良い血だけを受け継ぎ、日本人よりも目鼻立ちが美しく、体つきも洋人の様で、一番人気を保っていた。不遇な中で蔦屋に救われた同志、自然と仲良くなって行った。

 

香蘭に守られながら、お満は1年もしないで花魁へと変貌した。蔦屋の思惑通りに・・・・

 

処女では無いので、水揚げは出来ない筈。そこは三浦屋と蔦屋の謀り事。蔦屋は自分の子飼いの商人を立てて、水揚げを行った・・・・・

その前日、蔦屋と香蘭はお満に策を授ける為の座敷を設けた。

「お満さん、やっと花魁への門が開きましたな・・・・』蔦屋の言葉に、頷きながらも、「蔦屋さんの御恩は一生忘れまへん・・・・でも、男を知らぬ訳ではおへんよって、水揚げなど出来ましょうか・・・」すっかり、花魁の言葉も板に着き、お満は不安を打ち明けた。そこへ香蘭が口をはさんだ「お満さん大丈夫われが良い策をお教え致します」

その策とはこうだった、動物の死骸から血を取り、鮒の浮き袋へ入れて、行為の前にほと(女陰)に仕込むと言うのだ・・・・ところが、それを聞いて蔦屋は大笑いした。「そんな事をせんでも、相手は私の子分のような男。全てを知ってお前様を水揚げするんで、そんな心配はいらねえよ!」

花魁の2人は顔を見合わせて、頬笑みあった・・・・

「だからよ・・・今日、2人に来てもらったのは、その男に得も言われぬ快楽を与えてやって欲しいからよ。今回のあいつの報酬だ~な。香蘭さんよ、お満にその為の技(わざ)~教えてやっておくれ~な・・・」「合点承知でござんす。」香蘭の可愛いい顔が淫靡にほほ笑んだ。

本来、水揚げは1対1でで行う物で有るが、夜伽の部屋には、お満と香蘭の2人が待っていた。

蔦屋が用意した商人は、旗本の三男坊で商家へ養子に入り、元々、持っていた能力が花開き、業績を伸ばした男で、名前を慎之介と言う、中々の色男。絵筆を商う事で蔦屋と知り合い、お互いの趣味と実益に共感して、今では蔦屋が最も信頼する商人だった。

慎之介が襖を開けると、三つ指付いた2人が迎える。薄い桃色の襦袢を着たお満の初々しさと深紅の襦袢を着た香蘭の妖艶さが慎之介から言葉を奪った。一時の沈黙の中、お満が口火を切った。「本日の水揚げ、謹んでお受けいたします・・・・」続いて香蘭が「異例では御座いますが、口利きの蔦屋様の御意向により、私、香蘭もご一緒させて頂く事に成りんした。よしなにお願い御頼の申しやんす。」

 

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